ビタミンD、カルシウム不足


ビタミンDとカルシウムは、密接な関係にある。カルシウムをいくら与えても、ビタミンDが不足していると、体内で有効に使うことができず、カルシウム不足の症状を呈する。いわゆる「くる病」などと同様な症状であるが、エキゾチックアニマルでは一般的にMBD(もしくは、代謝性骨疾患)と呼ばれている。
MBDは世界中のイグアナの8割がかかっているともいわれる病気で、成長の段階によって症状は異なる。カルシウムが大量に必要な成長期の幼体に多く、背骨や尾の変形、手足の変形、顎の軟化等が現れる。更に進行すると四肢の麻痺や痙攣、骨折を起こす。成体の場合は、手足や顎の腫れや、手足の痙攣や麻痺が見られる。骨が軟化し、体重を支えきれなくなり、やがて骨折する。
早期発見、環境改善が望まれるが、飼育下で外見だけからの判断は困難である。健康診断として、定期的に血液検査やレントゲン検査をするとよい。熟練した獣医師であれば、血中カルシウム濃度や、骨の輪郭から判定可能である。
卵を持ったメスのイグアナもカルシウムが卵に導引され、MBDに陥りやすい。上記の症状の他に、卵殻の形成が不完全なために卵詰りになりやすいので、十分な注意が必要である。MBDは徐々に進行し、生命の危険に発展することも多いので、根本的に原因を究明し、環境や餌を改善する必要がある。MBDは100%人為的な要因であり、自然界のイグアナには存在しない。
カルシウムは、主食に適した野菜であれば十分に含まれており、飼主が気にかけていれば、あまり不足することはない。もちろん、彼らの消化のための十分な温度に設定されていることも重要である。
それに対して、ビタミンDは単に食物から吸収しただけでは不完全で、紫外線(UVB)の働きによって初めて活性化される。
予防としては、夏場であれば直射日光による日光浴が最適であるが、気温の低い冬などは直射日光が困難である。日本の緯度では、十分な紫外線供給のためにUVB領域まで放射する照明類(爬虫類用蛍光灯、メタルハライドランプなど)を設置する必要がある。
基本的には動物病院での診療をすすめるが、環境や餌の改善なしには治療の効果はない。重度の場合はカルシウムやビタミンの投与を行う。
環境改善や適切な処置によって治療可能ではあるが、幼体時の骨の変形などは元にもどらないので、何よりも予防が大切である。


ビタミンD過剰


過剰なビタミンDは、すべての爬虫類に致命的な影響を与えることが知られているが、特にイグアナでの症例が多く報告されている。
経口的に摂取したビタミンDは、消化管からのカルシウムとリンの吸収効率を高め、腎臓の尿細管でのカルシウム再吸収率を高める。従って、経口的に過剰なビタミンDが与えられた場合、血中のカルシウム、リン濃度が上昇する。高濃度の血中カルシウムは様々な組織に析出し、重大な障害をもたらすことがある。特に、動脈系弾性組織へのカルシウム塩の沈着や、尿カルシウム沈着による尿細管の壊死が致命的になる。進行すると、普段写らない臓器が、カルシウムの沈着によってレントゲン写真で明確に認識できるほどになる。
臨床的に見た症状としては食欲減退、手足の麻痺が起こる。不足症と症状が似ているが、血液検査により、血中のカルシウム濃度を測定すると診断可能である。
紫外線によって活性化ビタミンDは、骨格系に備蓄されているカルシウムを活性化させるように働き、消化器系からのカルシウム吸収率等には影響を与えないとされている。不足症の治療として、ビタミンDを経口的に与え過ぎると、過剰症に陥り易いので注意が必要である。また、ビタミンDの正しい用量などはまだ分かっていない。
基本的に、ビタミンDは薬として投与するのではなく、正しいバランスの餌と紫外線によって得られるものだと認識すべきである。



MBD画像


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成体MBD
イグアナの頭部を真横から見て、下顎が上顎よりも短い場合はMBDの可能性がある。(写真提供:VEIN
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成体MBD
口を開けると、下顎の骨が軟化して変形しているのが分かる。(写真提供:VEIN
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幼体MBD
成長期の幼体では特に顕著で、筋肉によって顎が牽引され、下顎が横に大きく張出している。(写真提供:VEIN
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幼体MBD
正面から見ると笑ったような顔になり、「グロテスクスマイル」と呼ばれている典型的な症状である。(写真提供:VEIN
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椎骨・尾の変形
背骨や尾が波打つように変形する。(写真提供:VEIN
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レントゲン写真
MBDに陥ったイグアナのレントゲン写真。(写真提供:VEIN