短波長光照明装置3号機
Short Wave Illumination System - III


●短波長光照明装置の開発
●短波長光照明装置3号機
2号機の設計条件をそのままに、より蛍光のコントラストが高く、周辺がより自然な描写の画像を得るために改造を行う。

3号機検討項目
  • フルオレセイン染色液の励起波長により適合する波長の出力
  • フルオレセイン染色液の蛍光波長を選択的に透過するフィルターの検証
  • 白をできるだけ白く表現するための出力側フィルターと入力側フィルターのマッチング検証
蛍光物質は、一般的に電磁波などのエネルギーによって原子が励起状態になり、元の状態に戻るときに光を放出する。そのとき、発せられる光の波長は、励起波長よりも長くなり、電子の軌道変移により発生するエネルギー放出なので、通常は分散の少ないナローバンドである。
フローレス試験紙(R)(有効成分:フルオレセインナトリウム)を製造している昭和薬品化工株式会社および販売元の株式会社メニコンに励起波長および蛍光波長を問い合わせた。データは以下の通りである。

波長
フルオレセイン励起光485nm
フルオレセイン蛍光発光515nm

分散や半値幅などのデータはないということで得られなかった。しかし、1号機製作時の紫外線による励起試験などから、励起光の波長幅は短波長側に広いと思われる。蛍光発光はその特性から分散の少ない輝線であると予測される。

3号機の改良として、できるだけ効率よく励起エネルギーを与えるため、約500nm以下を選択的に透過するフィルターを出力側(ストロボ)に設置し、蛍光発光した515nm付近を選択的に透過するフィルターを入力側(撮影レンズ)に設置する。
出力側フィルターとしては、2号機で使用したアクリルコバルトフィルター、3色分解用フィルター、入力側フィルターとしては、白黒フィルム用イエローフィルター、バンドパスフィルター、シャープカットフィルターを候補として挙げ、それぞれの分光曲線を吟味していくつかの組み合わせを実験した。
画像は、1.5cm角の灰色のスポンジにフローレス試験紙を水で溶いた溶液を染み込ませたものである。

出力側
-:なし
Co:アクリルコバルトフィルター:分光特性不明
B:3色分解用ブルーフィルター
入力側
-:なし
Y:白黒フィルム用コントラスト強調フィルター(Yellow)
BP:バンドパスフィルター:ピーク波長530nm、半値幅59nm
SC:シャープカットフィルター:透過限界波長500nm

入力側
-YBPSC


-
Co
B
共通データ:ボディ:Nikon D1x、レンズ:AF MICRO NIKKOR 105mm 1:2.8D、ストロボ:SB-28DX、絞り:F25、シャッター速度:1/200s、ISO:125、WB:太陽光、カラープロファイル:sRGB、測光:スポット、露出補正:ストロボによるプラス補正(+0.3〜+1.0EV)
画像処理:フォトショップによるトーン調整のみ。色彩は未補正。

予想通り、ピーク波長530nmのバンドパスフィルターの特性は見事であり、半値幅も狭いことから、出力側の波長にあまり影響されずにフルオレセインの蛍光波長を選択的に透過することがわかる。しかし、上のテストでは出力側にコバルトフィルター、3色分解用ブルーフィルターを使用した画像の方がコントラストがあり、蛍光が強調されているのがわかる。
出力側コバルトフィルターと入力側シャープカットフィルター(500nm)の画像もコントラストがあり、良好である。
分光特性不明なアクリル製コバルトフィルターが予想以上に好成績であった。

好ましい組合せ
出力入力
アクリルコバルトフィルターバンドパスフィルター
3色分解用ブルーフィルターバンドパスフィルター
アクリルコバルトフィルターシャープカットフィルター

しかしながら、実際の動物の眼は様々な色彩を持ち、フルオレセイン蛍光の透過性だけでは評価できない。白い結膜の表現力、虹彩の色彩、血管の描画など、画像にはそのほかにも多くの評価ポイントがある。フルオル試験は角膜の試験ではあるが、染色された部分のみが発光し、その他の部位が黒くつぶれていても良いのであろうか。「正しいフルオレセイン染色の陽性像」というものは存在しないと思うが、眼科診療上、フルオレセイン蛍光発色している部分以外の部位も写っている方が、潰瘍位置なども把握しやすく、個人的には好ましいと思う。以降は動物の眼の実写によって最適解の絞り込みを行う。

実写

角膜潰瘍を持つウサギで実写テストを行った。
今回は出力側アクリルコバルトフィルター(Co)、3色分解用ブルーフィルター(B)、入力側はバンドパスフィルター(BP)、シャープカットフィルター(SC)の組合せで撮影を行ってみた。
入力側
BPSC


Co
B
共通データ:ボディ:Nikon D1x、レンズ:AF MICRO NIKKOR 105mm 1:2.8D、ストロボ:SB-28DX、絞り:F32、シャッター速度:1/200s、ISO:125、WB:太陽光、カラープロファイル:sRGB、測光:スポット、露出補正:ストロボ側(+1.0EV)カメラ側(+1.0〜+2.0EV)
画像処理:フォトショップによるトーン調整のみ。色彩は未補正。

バンドパスフィルターは、フルオレセイン蛍光波長を選択的によく透過するが、周辺の未染色領域でも530nm近傍の波長しか通さないため、全体的に緑かぶりをしたような画像となり、コントラストと色再現の面からは好ましくない結果となった。
3色分解用ブルーフィルターは、長波長側で再度透過率が上がるため、シャープカットフィルターとの組合せではフルオレセイン染色以外の部位が赤く露光されてしまうため好ましくない。
予想に反し、最も好ましい発色を示したのが、出力側コバルトフィルターと入力側シャープカットフィルターの組合せである。フルオレセイン蛍光が選択的に強調されている上、周辺の未染色領域が比較的自然な発色となる。その結果、フルオレセイン蛍光がより強調されて見える。

より細かい周波数カット位置や、様々な分光特性のフィルターを組み合わせることによって、より自然な描写にすることも可能であろう。今後の課題とする。