■ 雌雄 ■
イグアナの雌雄が問題となってくるのは、複数の個体を飼育する場合、さらに繁殖を考える場合でしょう。単独飼育する限りにおいては、雌雄の違いは殆ど問題になりません。
2匹以上飼育する場合、オス同士だと、成体になるに従って排他的になってきます。1年位すると互いにボビングを繰り返し、口を開けて威嚇し合う様になります。ここでどちらかが引き下がらないと、噛み合いの壮絶な戦いになります。一度優劣が付いてしまうと、弱い方が逃げるようになるので、争いごとは少なくなりますが、互いに引き下がらなかったり、逃げる場所がなかったりすると、デスマッチに発展することも珍しくありません。特に、狭い空間での同性の複数飼育は、幼体の頃は問題なくても、成体になるにつれて危険率は高くなります。従って、2匹目以降購入の際には、雌雄や提供できる空間を十分に検討して下さい。
□ 雌雄の違い □
外見から幼体のイグアナの雌雄を判定するのは非常に困難で、素人にはほとんど判別不可能でしょう。慣れたペットショップでは、テスト棒を使用したり、尾の付け根を圧迫して雌雄の判別をできる所もあるでしょうが、臓器を傷付ける危険が伴います。幼体に関しては、何となくオスらしいとかメスらしい位の判断で、選択させられるのが現状のようです。1年位飼育していると、イグアナは雌雄の幾つかの外見上の特徴を備えて来ます。
今までは、オスの方が喉袋が大きく、背中の刺が長いと言われていましたが、喉袋や背中の刺の大きさは、採集された地域によってかなり異なり、同一地域産であることの保証がない限り、単純に比較することはできません。また、オスの尾の付け根が太いとか、メスの腹が丸いといった表現も、健康状態や脂肪の付き方によって異なるので、判定は難しいでしょう。オスの方が色がきれいであると信じている人もいますが、それこそ全くあてになりません。そんな中で、地域や健康状態によらず、唯一信頼できる特徴が「そけい孔」の大きさです。
オスもメスも、大腿部裏側に「そけい孔」と呼ばれているフェロモンを分泌する孔列が一列並んでいます。この大きさが、オスとメスでは歴然と異なって来ます。半年位すると、オスのものは穴が広がり、中心から黄色い芯のような物が突出して来ます。それに比べてメスのものは、孔列の存在は判りますが、鱗がちょっと乱れているかな、という程度でしかありません。一度雌雄を比較して見ると、明らかな違いが認識できるでしょう。幼体の頃でも、注意深く比較すると、その片鱗が確認できるかもしれません。
もう一つの外見上の特徴は、顎の大きさの違いです。オスの顎は、メスに比べて横に張り出してごつい感じになって来ます。メスの頭部の方が、細長くより繊細な印象を受けます。成熟したオスは、顎下大鱗片の辺りを外側に張り出させる様になります。
Male
Female
運が良い方は「確実にオスである」ことの確認が取れる場合があります。オスのイグアナは、何かのタイミングで、おもむろにペニスを総排泄孔から出すことがあります。これが確認されたら、間違いなくオスです。かなり幼体の頃でも出すことがあるので、良く観察していましょう。排便時などに確認できる場合が多い様です。
オスのイグアナには、ヘミペニスと呼ばれる生殖器が2本あります。総排泄孔から尾の方向に、丁度細長い袋を裏返した様な形で収納されています。傘の袋を裏返す様に、出したり収納したりします。色は綺麗な赤で、始めて見る方は驚かれることでしょう。脱腸になってしまったんじゃないかと勘違いしそうなものです。その為、成熟したオスでは、尾の付け根の腹側が、2ヶ所細長いドーム場に膨らんでいます。これもオスの特徴の一つでしょう。
□ ボビング □
ボビングは、イグアナが他のイグアナに対して行う自己アピールの一つで、頭を数回上下に振る動作を示します。音を発しない彼等にとっての、コミュニケーション手段の一つとなっているのでしょう。幼体の頃はあまり見せませんが、半年位すると頻繁にボビングの動作を示すようになります。これはオスに限ったことではなく、メスもかなりの頻度で行うので、ボビングを雌雄判定の指標とするのは信頼性が低いでしょう。成体になってからのボビング数は、確かにオスの方が圧倒的に多くなりますが、比較の問題になってきます。それよりも、その頃までには、そけい孔によってもっと確実に判別できているはずです。
コミュニケーションと言っても、ボビングによる彼等の会話の内容は、今まで観察していた限り2種類しかないようです。人間語に直訳すると「お前が嫌いだ!あっちへ行け!」と「お前が好きだ!そっちへ行く!」の2つの意味がある様です。残念ながらこの相反する二つの違いは、人間が見るとほとんど同じに見えます。
「嫌いだ」はオス同士、メス同士に見られ、自分が気に入っている場所に他のイグアナが進入した時に、互いに激しくボビングして追い出そうとします。どちらかが引き下がらないと、噛み合いの闘争に発展することがあります。また、同性だけではなく、発情期ではない時の異性間でも、かなり激しく縄張り争いは起きます。
「好きだ」の方は、発情期のオスがメスに示す行動で、メスの前に立ちはだかっては頻繁にボビングするようになります。メスの方も、それに応えてボビングの応酬をしますので、初めはなかなか縄張争いとの区別が付きません。オスは、許されるとメスの背中に乗り、そこでボビングを繰り返します。成熟した雌雄であればその後交尾する可能性があります。
□ 繁殖 □
健康なイグアナは、大体生後2年位で性成熟します。適切な温度、食事、日照、空間を与えてやると、飼育下でも十分に繁殖の可能性は出て来ます。以下は雌雄のイグアナの交尾時の模様です。
11月後半から、オスがメスを絶えずボビングをしながら追いかけまわし、背中に乗ったり首筋を噛む行動を頻繁に示すようになる。いつもなら反撃していたメスも、あまり抵抗せず、しばらく眼を閉じたまま噛まれたままにしている。オスはまだペニスを出さず、ただ首に噛付いて背中に乗るだけである。アダルトイグアナページ
数週間後の12月初旬、午前10時頃、オスがメスの背中から首に、いつもより激しく噛付き、リズミカルに力を入れてねじるように噛む。しばらくすると、オスは、体をよじるような形で、尾をメスの尾の下に潜らせ、メスは自らの尾を高々と持ち上げ、オスの受入体制をとる。互いの総排泄孔を近づけ、オスはペニスを突出させ、メスに挿入する。約7分間で交接完了。オスは裏返すように速やかにペニスを収納し、オスもメスも平常に戻る。
メスは、卵を産む5週間前位から水しか飲まなくなり、地面に穴を掘って卵を産みます。飼育下では、大型の容器(大きいゴミ箱とか衣装ケースが利用できると思います)に、土と砂を半々に混ぜたものかバーミキュライトを入れ、部屋の隅に設置します。容器の上は、箱などで覆って内部を暗くし、出入口の穴を設けます。うまく行けばその中の土を堀り、卵を産みます。卵は長径3.5cm短径2.5cm位の楕円形です。生まれた卵は、直ちに、回転しないように掘り出し、孵化器にセットします。
産卵は、数時間で完了する場合と、数日間にも及ぶ場合があります。また、個体によっては、産卵直後もしくは、産卵中にも餌を食べ始める場合があります。