イグアナの顕微鏡観察

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□ 検便 □

 声も発せず、哺乳類と比べて動きの少ないイグアナの健康状態を外観から判 断するのは困難です。特にイグアナなどに多い消化器官の障害はただ観察して いるだけでは見つけにくく、判明した時はもう既に手遅れである事が多いので す。健康状態の唯一の手掛かりとも言える便にもっと注目し、我々が積極的に 便の検査を心掛けるのが健康に長生きさせる為の近道です。便と言うと汚いイ メージがあり、顔をそむける人もいるかもしれませんが、話すことのできない 彼等のただ一つのメッセージだと考えて下さい。

◇ 肉眼による観察 ◇

 目の前でしてくれれば良いのですが、1日中観察しているわけにはいかない でしょうからまず便をしたかどうか確認します。していない場合はいつからし ていないのか思い出して下さい。便が出ない日が続くようでしたら問題です。 便秘の章を参照して下さい。便がある場合すぐに処分せず、丁寧に取り出して 観察します。ティッシュペーパーと使い捨ての爪楊枝をいつも用意していると 便利です。

 まず量を確認しましょう。いつもと同じくらいの量でしょうか。太さや長さ も毎回観察して大体の目安を覚えておきます。極端に細かったり太かったりす る場合は調子を崩しかかっている証拠です。

新鮮な便が採集できた場合は硬さもチェックします。健康な便は程よく柔ら かいものです。例えて言うならばチューブ入りの練りわさびよりもちょっと固 い程度です。楊枝が軽く刺さるくらいの粘度が健康便です。便の形が維持でき ないほど柔らかいものは下痢をしていますので何らかの障害が起きている可能 性が強いでしょう。逆に楊枝を刺すのに力がいるくらい固い便の場合は便秘を 起こしかけています。

 色も観察して下さい。餌にもよりますが、野菜類を良く食べているイグアナ の便は深緑色をしています。オリーブドラブという表現が近いかもしれません。 黒に近かったり表面に赤いものが付いている場合は消化管内で出血している可 能性があります。

 さらに便の表面や便を割った中に線虫がいないか確認します。線虫は肉眼で も注意深く観察すれば十分に確認できます。5ミリから1センチくらいで白く、 極めて細いものがあり、じっと見ていてわずかにでも動くのが確認できたら間 違いなく線虫でしょう。楊枝などで取って黒い紙の上に置くとより一層確認し 易くなります。拡大鏡などで確認すると、白っぽい半透明で両端が細くなった 形状をしているのがわかります。便には線虫に酷似した野菜の繊維もたくさん 含まれているので間違えないようにして下さい。

 もし上記のいずれかがあてはまるようなら便を持って獣医師に検便をしても らって下さい。検便を依頼する時はできるだけ新鮮な便をサランラップなどで 包み、体温程度を維持したまま素早く診てもらいましょう。時間がたつにつれ 原虫類などの検出率は低下してしまいます。

◇ 顕微鏡による観察 ◇

 近くに爬虫類を扱ってくれる病院がなかったり、検便を依頼する時間が無い 方は自分で鏡検する事をお薦めします。特にこの分野は未だ確立されておらず、 まだまだ未知の世界が残されています。イグアナの便の検査の為に顕微鏡を揃 えるという事は決しておおげさなことではなく、爬虫類飼育者にとってはかな り重宝する器具であると思います。

 真剣に飼えば飼うほど、イグアナを愛すれば愛するほど会話のできない彼等 の異変を一早くキャッチしたいと思うのは当然です。しかも原虫や線虫、線虫 卵、条虫卵は素人でも確実に検出でき、寄生を確認できます。可能であれば一 度専門家に検便を依頼し、顕微鏡を覗かせてもらうと良いでしょう。最低限用 意すべき物は

です。これで検出はできますが、診断は獣医師に任せて下さい。

顕微鏡

microscope  顕微鏡は長く使う事を考えるとある程度良いものを購入する事をお薦めしま す。ここで言う良いものとは倍率が一番高いものと言うことではなく品質の良 いものという意味です。デパートの玩具売場で600倍とか800倍とかの肩 書きで売られているものよりも名のあるメーカーの低倍率の顕微鏡の方が解像 度が高く遥かに良く見えます。虫卵は比較的大型なので簡単に発見できると思 いますが、原虫類は非常に小さく、しかも透明な為はじめは検出が難しいでし ょう。形状も解像度の低いレンズではほとんどわかりませんが、高解像度のレ ンズを使用すると活発に動かしている鞭毛や波動膜も見えてきます。

 推薦するレンズの組み合わせは対物レンズ10倍と40倍、接眼レンズ10 倍で、総合倍率100倍と400倍です。10倍の対物レンズは虫卵の検出に 使用し、40倍の対物レンズは原虫類の検出に使用します。対物レンズはこの 2本があれば十分でしょう。

術式

0.8%生理食塩水を作ります。正式な作り方ではありませんが、家庭で手軽 に作る方法として、1日汲み置きした水道水1リットル(1000g)に食塩 8gを溶解したもので十分でしょう。(もちろん正確な秤をお持ちの方は10 0ccの水に0.8gの食塩で結構です)一度作っておくとしばらく使う事が できます。

きれいなスライドガラスの中心に生理食塩水を1滴たらします。

新鮮なイグアナの便を楊枝で極微量採集します。楊枝の先に付いた1ミリ立方 程度の少量で十分です。

スライドガラスに滴下した生理食塩水に採集した便を溶かします。楊枝で均一 に溶けるように良く混ぜます。大きなゴミは取り除いておきます。

気泡が入らないように静かにカバーガラスをかけます。はみ出した溶液は紙な どで吸い取っておきます。

10倍の対物レンズで鏡検します。18mm×18mmのカバーガラスの範囲 でも線虫卵や条虫卵は非常に数が多いので寄生していれば検出は容易に行えま す。

40倍の対物レンズで鏡検します。無数の腸内細菌が活動している姿が見受け られます。その中でひときわ大きく(12μm×6μm位)楕円形で(洋梨型 に近い)数本の鞭毛があり、激しく活動している生物が確認できたら多分トリ コモナスでしょう。

もし便の中に線虫が確認できたら楊枝で注意深く取り出し、低倍率で鏡検する と線虫の構造が良く観察できて興味深いでしょう。食道球や卵巣が手に取るよ うに判ります。

spermup  余談となりますが、不幸にしてイグアナがケガをしたような場合手当が最優 先ですが、せっかく顕微鏡があるのですから一瞬待ってイグアナの血液を採集 しておきましょう。

清潔なスライドガラスを傷口に軽く押しあて素早く乾燥させます。余裕があれ ばスライドガラスを2枚使用し、血液を薄く引き伸ばして塗抹標本を作成する と良いでしょう。とにかく薄く延ばして素早く乾かすのがコツです。傷の手当 をした後血液標本の鏡検をして見て下さい。

 イグアナは他の爬虫類と同様に核のある楕円形の赤血球を持っています。よ り深く観察したい方は固定して染色する事をお薦めします。白血球も見えてきますし、場合によって は血液中に寄生する原虫類も発見できるかもしれません。

写真は、イグアナの精子


□ 寄生虫 □

どんなに餌に気を付けても、環境を整えても、イグアナは初めから何らかの寄生虫に感染していることがあります。寄生虫は、大きく分けて、宿主の体表に寄生する外部寄生虫と、体の内部に寄生する内部寄生虫に分類できます。内部寄生虫は、さらに消化管などに寄生する腔内寄生性、臓器内等に寄生する組織内寄生性、細胞の内部に寄生する細胞内寄生性のものに分類できますが、組織内、細胞内寄生については専門家にお任せするとして、症例の多い腔内寄生しているものの一部を紹介します。

◆外部寄生虫◆

イグアナの外皮に棲む寄生虫で、代表的なものにダニがあげられます。現在、日本に入ってきている幼体のイグアナには、大分少なくなってきている様ですが、ペットショップのケージや、他の爬虫類などから移る場合があります。ダニは種類も大きさも様々で、目に見えないほど小さいもの(mites)から、数ミリのもの(ticks)まであり、中には1cm位になるものまで含まれています。成長すると、ダニとは思えないほど大きくなりますので、妙なできものができたと言って病院に連れてくる人もいるそうです。これらダニは放置しておくと、直接的な害よりもむしろダニがいることによって、顔や体をケージに擦りつけたり、引っ掻いたりして傷ができます。そこから感染症を起こしたり、リケッチアや原虫などの、血中への二次的な感染の方が危険になってきます。種類によっては、人間を含む他の動物にも害を及ぼすことがありますので、発見次第、直ちに完全に駆虫した方が良いでしょう。熱帯性の外部寄生虫は、一般的に、一度根絶すると再発はしません。

大型で目に見えるものは、その部位をアルコールで消毒し、ダニを殺してから、直接ピンセットなどで注意深くねじるようにして取り除きます。頭部が鱗の間に深く入り込んでいると思いますので、ゆっくり引き抜くようにして下さい。とれたら、再度アルコールまたはオキシフルで消毒しておきます。

小さいダニの存在は、ダニのフンで白い粉をかぶったようになるので認識できます。首の周りや尾の付け根付近を、特に良く観察して下さい。頭部以外でしたら、アルコールなどの消毒薬で駆虫できると思いますが、目や口の周りには使用できません。この様な場合は、犬猫用のノミ、ダニ駆虫剤を使用します。ただし、これも毒物なので、用法用量などは獣医師の診断を仰いで下さい。 一度ダニが発生すると、イグアナ本体のダニをいくらとっても、駆虫できない場合があります。ダニはケージの隙間や、レイアウトに使われている木の枝などに潜んでいることが多く、これらを消毒しない限り、完全駆虫は困難です。木製のケージの場合は、更に困難でしょう。駆虫の最中は、レイアウトを全て取り出し、薄めた漂白剤などで消毒します。ケージの中も清潔に保つようにして下さい。漂白剤を使用した場合は、イグアナを戻す前に十分乾燥させて下さい。

◆内部寄生虫◆

餌も環境も問題なく、十分に気を付けているのにイグアナが調子を崩す場合、内部寄生虫を疑って見る必要があります。ここでは内部寄生虫として、小さいものは原虫から、大きいものは条虫まで扱うこととします。イグアナの内部寄生虫は、まだ知られていないことも多く、これからの研究課題が多く残されています。これら内部寄生虫の学術的な分類は多枝に渡り、一冊の本になってしまうほどなので、本書では簡単に、肉眼で見えない「原虫」と、便の中に細い糸状に見える「線虫」、更に一般的に真田虫と呼ばれている「条虫」に分けて記述して行きます。これらの症例は非常に多く、未治療のイグアナは何らかの内部寄生虫に侵されている可能性があります。

寄生虫症は、一般に、感染して数日以内に死に至るいたると言うものは少なく、大抵の場合は、じわじわと数ヶ月から数年かけて調子を崩して行くものです。寄生虫の種類によっては、一生の間全く気付かれずに過ごしてしまうものいます。しかしながら、放っておいても良いというものではなく、何らかの原因で体が弱った時などに、寄生虫がいることによって致命的になることがあるのです。従って、寄生虫が発見されたら、健康な内に駆虫することをお薦めします。その為にも、新鮮な便を定期的に病院等で検査してもらい、早期発見に努めて下さい。最近では、優れた駆虫薬も開発され、駆虫自体は比較的楽に行える様になっています。薬は、必ず体重を測定し、獣医師に調合してもらって下さい。犬猫用の駆虫剤を適当に飲ませるのは危険です。大型の寄生虫は、便の中に肉眼で発見できるので毎日観察しましょう。同時に便の状態、量も確認しておきます。これらの寄生虫の中には、人体にも軽い感染を起こすものもありますので、便を扱った後は必ず手を良く洗って下さい。

原虫

trichomonas 便の中に肉眼で確認できる寄生虫もなく、飼育温度も問題ないのに食欲が減退したり、柔らかい便をする様だと、原虫の寄生が考えられます。便を顕微鏡で検査してもらえば、すぐに確認できるはずです。イグアナに多く見られる原虫は、トリコモナスやジアルジア原虫です。これらの原虫は嫌気性である為、新鮮な便で検査してもらう必要があります。できれば、密閉容器かサランラップ等に包み、30度以上に維持して、1時間以内に検査してもらうと良いでしょう。時間が経つと検出不能になります。治療は獣医師に相談して下さい。原虫を駆虫する薬を処方してくれるはずです。治療中は、ケージや部屋を清潔に保つように心掛けて下さい。特に、他の爬虫類も飼育している場合は注意が必要です。

筆者の経験では、トリコモナスの駆虫は非常に困難です。はたして完全に駆虫する必要があるのか否かも疑問です。無理に駆虫すると、有用な腸内細菌までも死滅してしまう可能性があります。過去に、数ヶ月間抗トリコモナス剤を投与しても駆虫できなかったので、現在は治療していません。治療中止後1年以上経ちますが、イグアナ達には何ら病的症状は確認できません。もちろん便を検査すると、多数のトリコモナスが寄生しています。もう少し様子を見る必要があると思いますが、トリコモナスは、イグアナには普通に存在して、病原性は極めて低いものなのかもしれません。

駆虫法は、metronidazole(メトロニダゾール)を投与する方法がありますが、個体差や体重によって異なるので、獣医師の指示に従ってください。

線虫

nematode 消化管内に寄生する線形動物には分類上、蛔虫、蟯虫、鉤虫、糞線虫等様々な種類がありますが、ここでは全てまとめて「線虫」と呼ぶことにします。線虫には、成体で数ミリのものから数センチに達するものまであります。中には消化管だけに留まらず、他の組織に進入して致命的な障害を起こすものもいますが、おおむね消化管内に生息し、時々便と共に排泄されるので確認できます。便の中に細く白い糸状の組織があり、良く観察するとゆっくり動いていたら、線虫の類だと思って間違いないでしょう。便の中に虫体が発見できない場合でも、便に含まれている虫卵を検出することによって、線虫の寄生を確信することができます。 nematodeeggs 虫卵は、大きいものでも長径140μm×短径80μm程しかない楕円形の物体なので、肉眼では見えませんが、一般的に線虫の産卵数は多い為、微量の便からでも顕微鏡で検出できます。線虫は、その発達程度の低い消化管に比べて、異常とも言えるほど生殖器が発達しており、消化管内の養分を吸収しながら、毎日大量の卵を生産しています。種類によっては、1日に数百から数千個の虫卵を産出するものもおり、成体の線虫はまさに卵の生産工場と化します。頭部には、宿主に固着する為の鉤があるものもおり、多数寄生すると腸壁が傷つき、便に血が混ざることもあります。健康な状態では、免疫などの作用で制限されている線虫数も、ひとたび体調を崩したりして免疫力が弱まると、異常繁殖することがあり、全て線虫の塊のような便をすることがあります。こうなるとかなり致命的で、消化管は相当傷ついているはずです。ここまでに至る前に、検便によって線虫の寄生を確認し、治療を開始しなければなりません。

nematodeembrio 最近は非常に良い薬が開発され、駆虫は難無く完了するでしょう。獣医師に処方してもらった薬を数日間投与するだけで、ほぼ駆虫できるはずです。それでもまだ、卵や線虫の幼体が残っている可能性があるので、完全に駆虫する為には、1ヶ月位置いて再度検査してもらいましょう。卵が確認されたら、もう一度投薬します。これを卵が完全に検出されなくなるまで繰り返します。

線虫は次に述べる条虫とは異なり、次世代の寄生の為に中間宿主を必要としないため、自家感染率が高いのも特徴です。イグアナを複数飼育している場合は、1匹に確認されたら全個体を治療の対象とします。

駆虫は、fenbendazole(フェンベンダゾール)を経口投与する方法がありますが、個体差や体重によって異なるので、獣医師の指示に従ってください。

条虫

線虫の寄生も条虫の寄生も、症状的には大差なく、治療法も同様ですが、虫体の生物学的特徴が大きく異なるので、ここでは分離しておきます。分類学上は、線虫が線形動物であるのに対して、条虫は扁形動物です。英語では「tapeworm」と言われているように、偏平で細長い形態をしています。日本では、真田紐に似ているという事から一般的に「真田虫」と言われていますが、その名の通り、虫体は無数の体節に分割されております。大きなものでは、体節が数千節もあります。頭節以外の体節の連なりを、ストロビラと呼びます。頭部に近いほど体節の幅は狭く、スロトビラの末端に行くに従い、幅が広くなっています。頭節は虫体の第1節で針のように細く、肉眼ではほとんど見えない、1ミリあるかないかの大きさです。頭節には、宿主の腸壁に固着する為の吸盤あるいは鉤があります。 頭節の後方に頚部があり、そこで次々に体節が生産されて、ストロビラが形成されて行きます。生産された体節は、後方に移動するに従って成熟し、末端では、老化した体節が順次切り離されて行きます。従って、条虫の本体と言うべき所は頭節のみであり、ストロビラをいくら取り出しても、頭節が残っている限り、ストロビラはすぐに再生産されてしまいます。

驚くべきことに、条虫には口も消化管もありません。虫体の表面は、特異な分化を示しており、寄生している宿主の消化管を、ちょうど裏返した様な構造をしています。虫体全体が絨毛突起で覆われており、体節のどの部分でも、周りから直接養分を吸収して生きています。

ストロビラを形成する体節の一つ一つは、独立したモジュールになっており、一つの体節の中には、精巣と卵巣がぎっしり詰まっています。頚部で生産された体節は、最後尾で離脱するまでの間、体表から養分を吸収しつつ、受精卵を生産し続けるのです。

条虫卵は、線虫のそれよりもやや小さい楕円形で、70μm×50μm程度です。慣れないとなかなか見つけられないかもしれません。条中類は一般的に、卵から直接同種の宿主に寄生する事はなく、中間宿主の媒介が必要になります。従って、いくら大量の卵を産出するからと言って、線虫の時の様に消化管の中が条虫だらけになったりする事は、まず無いでしょう。中間宿主の種類は、条虫の種類によって異なり、ミジンコや昆虫であったり、魚類、更には哺乳類であることも考えられます。中間宿主になれる種が、虫卵を摂取すると、終宿主に感染可能な幼体にまで発育します。この中間宿主を、終宿主が摂取する事によって、初めて本来の寄生が成立します。このように、条中類の感染経路はかなり複雑で、中間宿主が数段階に別れているものや、未だ中間宿主の種を特定できないものもあります。

イグアナの感染経路も不明確ですが、食性から考えて葉に付く昆虫類からの感染や、水棲生物の誤飲からの寄生ではないでしょうか。

これほど凄い生物ですが、駆虫は比較的簡単で、線虫の時と同様に、獣医師に処方してもらった条虫駆虫薬を数日間投与するだけで行えます。

駆虫薬は、praziquantelを、経口投与する方法がありますが、個体差や体重によって異なるので、獣医師の指示に従ってください。


原虫類の固定

原虫類は生体で十分観察できますが、動きが早いため、写真を撮るためには、固定染色する必要があります。染色もうまくいくと核や内部構造も見えてきますので、学術的にも大変価値のある記録となります。ぜひ挑戦してみてください。
しかし、原虫類は非常に薄い細胞膜をもったデリケートな生物なので、固定するのが非常に大変です。トリコモナスを例にとって説明してみましょう。
まず、シャーレなどに入れた便を生理食塩水で溶かします。溶液のゴミの少ない部分を一滴取り、完全に脱脂されたスライドガラスにできるだけ薄く塗抹します。
塗抹後、直ちにドライヤーの冷風で乾燥させます。スライド上に薄い皮膜ができているはずです。
それを静かに、100%メタノールに浸けます。数分で固定されるはずです。
静かに取り出し、薄めたギムザ液で染色します。ギムザ液は、メタノールで5〜6倍に薄めて使用します。染色時間は、標本の染まり具合を見ながら調整します。人によっては10倍位に薄めたギムザ液で時間をかけて染色する方がきれいに仕上がると言いますが、気が短い人にはこっちの方が向いています。後の工程で若干色が落ちますので、この段階では、やや濃い目に仕上がった方が良いでしょう。
次に脱水過程に入ります。50%に薄めたエタノールに数分間浸けます。次に70%エタノールに同じように浸けます。さらに、90%、100%と時間をかけながら純エタノールに移行します。100%エタノールは液を変えて2回位浸けた方が良いでしょう。乾燥させ、次にキシロールに浸します。これで完全に脱水が完了しました。キシロールにはあまり長く浸けておくと色が薄くなってしまいますので、注意してください。乾燥後、バルサムでカバーガラスを貼り付けます。
1週間程度水平の箱に入れて乾燥させます。
これで永久プレパラートの出来上がりです。固定時間、染色時間、温度などは、実に経験値がものを言う世界なので、何度も失敗を繰り返しながら体得するしか方法がありません。その分、うまく標本ができた時の喜びはひとしおです。頑張って挑戦してみましょう。


トリコモナス(trichomonas)

trichomonas
0.8%生理食塩水溶解
スライドガラス塗抹
冷風乾燥
メタノール(メチルアルコール)固定
ギムザ染色
エタノール(エチルアルコール)、キシロール脱水
バルサム封入
対物レンズ:olympus pcd-ach 40×
撮影レンズ:olympus ld 3.3×
カメラ:pentax 645 ボディ(自作アダプター)
フィルム:fuji velvia 120

トリコモナス本体は、ダルマさんのような形をしていて、頭部に生えた3〜5本の長い鞭毛をせわしなく動かしています。生体では動きが早すぎて、あまり良く見えませんが、固定すると、鞭毛の本数や長さなどがよく分るようになります。これは、3鞭毛の tri-trichomonasです。染色がうまくいくと、母体の核や波動膜もよく見えてきます。

イグアナの精子

sperm
直接塗抹
冷風乾燥
メタノール(メチルアルコール)固定
ギムザ染色
エタノール(エチルアルコール)、キシロール脱水
バルサム封入
対物レンズ:olympus dplan 10×
撮影レンズ:olympus ld 5×
カメラ:pentax 645 ボディ(自作アダプター)
フィルム:fuji velvia 120
b/w画像処理

イグアナの精子は、人間のそれとは形状がかなり異なり、頭部がインゲンの鞘のように細長い形状をしています。生体の状態で観察すると、活発に活動している様子を見ることができます。交尾シーズンに採集するチャンスがあります。

イグアナの血球

bloodcell
直接塗抹
冷風乾燥
メタノール(メチルアルコール)固定
ギムザ染色
対物レンズ:olympus dplan 10×
撮影レンズ:olympus ld 5×
カメラ:pentax 645 ボディ(自作アダプター)
フィルム:fuji velvia 120

イグアナの赤血球には核があり(爬虫類の赤血球は核があります)、形も楕円形です。採血するのはかわいそうなので、不幸にもケガをした時などに少量を失敬します。塗抹は、2枚のスライドガラスを使うとうまくできるでしょう。