太陽光線はプリズムで分解して見ると分かるように様々な色(スペクトル)が合成されてできているものです。肉眼で見ると赤から紫までの可視光域しか見えませんが、赤の外側には赤外線が、紫の外側には紫外線が存在しています。赤外線も紫外線も目には見えませんが、生物にとっては重要な役割を担っています。
赤外線は照射されたものの温度を上昇させる効果があり、特に波長の長いものは遠赤外線と呼ばれ、物体の表面ではなく、内部から暖めると言われています。多くの爬虫類は日の出と共に日光浴を開始し、十分に体を暖めてから活動を始めます。
紫外線は体内でビタミンD(D3)を合成するのになくてはならないスペクトルです。しかし紫外線は同時に細胞を破壊する作用があり、長時間強い紫外線を照射すると皮膚の火傷や炎症を起こすことがあります。紫外線灯等のように可視光域よりも紫外線のエネルギーが大きい場合、光彩が十分に閉じない状態で照射されるので目に支障をきたすことがあります。その為、太陽光と同じエネルギー比率で可視光と紫外線が放射されているランプが望ましいのです。
一方、紫外線は波長が短い為、物質に反射されたり吸収されたりし易く、ガラス1枚でもほとんど透過しないと言われています。従って紫外線照射を目的とした場合、ガラスを挟まない直射日光に優るものはなく、どんなに優れた照明器具でも基本的には冬場などの補助的なものと考えて下さい。

◇ 照明 ◇

爬虫類にとって光は大変重要な要素で、多くの爬虫類は、光が無いと生きて行けないほどです。自然界では、よく日光浴をしているトカゲやカメの姿を見かけますが、彼等にとっては絶対に必要なものなのです。飼育下でも同様で、本来は直射日光による日光浴が不可欠なのですが、温室飼育中は十分な日光浴をさせることは困難でしょう。それを少しでも補う為に、人工照明を使用します。
一口に照明と言っても、光源から発せられる光のスペクトル分布は、発光方式によってかなり異なります。赤外線をより多く発するもの、昼光色を発するもの、紫外線を発するものもあります。ここでは、爬虫類飼育上有効であるとされている、フルスペクトル照明の紹介と、スポットライトについて述べます。
・フルスペクトル照明
フルスペクトル照明は蛍光灯の一種で、イグアナに限らず、日中活動するあらゆる生物にとって、非常に良い効果を発揮するとして注目されているものです。まだ輸入品しかなく、通常の蛍光灯と比べるとかなり高価な物ですが、その秘めた能力を考えると、コストパフォーマンスは良い物だと思います。
大きな特徴の一つとして、スペクトル分布が平均太陽光に合わせて設計されているので、色が自然である事があげられます。通常の蛍光灯は明るさを稼ぐ為、人間の眼の感度が一番良い、黄〜緑にピークが来る様に設計されているので、蛍光灯の照明だけで写真を撮って見ると、緑かぶりを起し、随分と色がずれている事が認識できると思います。フルスペクトル照明は、色温度が5500K〜6500Kに設定されているので、写真を撮っても自然な発色になります。
爬虫類にとって、色温度がどれほど直接的な影響を及ぼすのか正確な所は解りませんが、自然光に近いにこしたことはありません。海外の論文などでは、色温度が生物に与える影響は精神的な面で大きいと言う報告があります。余談ですが、米国の小学校の教室で試験的に使用した所、物がよく見える為、学童の知能が上がったと言う報告もあります。このほか、色を大切にするデザイン事務所、宝石や真珠の選別所等でも多く使われています。
次にあげられるのは、紫外線の放射です。紫外線を発するライトは、他にもブラックライト、紫外線灯など、紫外線の放射を主な目的としたものがありますが、取り扱いが比較的難しく、設置距離、照射時間等に充分注意しないと、火傷や失明の恐れがあり、安心して使用できません。それに比べて、フルスペクトル照明の紫外線の放射は、太陽光のそれに非常に近いので、これらの心配は全く無く、1日10〜12時間点灯したままで差し支えありません。筆者の場合は、タイマーで朝7時から夕方5時まで点灯する様にしていますが、それによる弊害はでたことがありません。フルスペクトル照明の放射する紫外線は、290〜380nmのスペクトルが含まれており、これはビタミンDを合成する為に必要となる波長域の1部です。因みに、通常の蛍光灯はほとんど紫外線を放射しません。
代表的なものに米国製のTRUE-LITEがあります。
TRUE-LITEの寿命は長く、通常の蛍光灯が5〜6千時間なのに対して、20W管で2万時間以上持ちます。種類は15W、20W、40Wの直管が市販されています。一つ注意すべき事は、TRUE-LITEの蛍光管の径が太く、20W、40Wともに38mmありますので、器具によっては(水槽用ライトボックス等)取りつかない場合があります。確認されてから購入する事をお薦めします。15W管は27.9mmなので問題はないでしょう。
温室への設置は、天井近くにガラスを挟まずに取り付けます。通常のガラスは紫外線を透過しない為、ガラスを挟むと折角のフルスペクトル照明の恩恵を受けられなくなります。前述の大きさの温室であれば、20W管が2〜3本もあれば充分でしょう。
直射日光が不足する場合はTRUE-LITE等
スペクトルに紫外線を含む照明で補う
・スポットライト
スポットライトは、温室内のある特定の場所の温度を局部的に高くする(ホットスポット)為に設置します。その為、放射スペクトルは赤外線が多く含まれていることが望ましく、白熱系の電球を使用します。赤外線を主に放射する専用の赤いランプ(医療用)も販売されていますが、そこまで必要かどうかは疑問です。30W程度の通常のスポットライト用電球でも、投光範囲はかなり高温になりますので、十分だと思います。本当に赤外線のみを放射する真っ黒なランプもありますが、点灯確認もしにくく、かなり高温になりますので、使用には十分な注意が必要です。通常のスポットライトでも、電球自体は触れると火傷をしますので、誤ってイグアナが触れないように網のカバーを取り付けます。スポットライトは、やはり温室最上段にあたる様に取り付けます。取り付けは確実に行うようにして下さい。クリップ式の物は、針金で縛り付ける位の安全対策は必要でしょう。スポットライトのあたっている部分は、多分40度近くなると思いますが、イグアナが腹部を暖め、正常に食物を消化する為には必要な温度です。もし温度が高くなり過ぎるようでしたら、ワット数を小さくするか調光器を取り付けます。
最上段にスポットライトを設置し
火傷防止用のカバーを付ける