内部寄生虫


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トリコモナス(Tritrichomonas spp.)(写真:山内 昭)
食餌も環境も問題なく、十分な飼育管理を施しているにもかかわらずイグアナが調子をくずす場合、寄生虫症を疑ってみる必要がある。ここでは消化管などに寄生する、小さいものは原虫から、大きいものは条虫まで扱うこととする。イグアナの内部寄生虫は、まだ知られていないことも多く、これからの研究課題が多く残されている。これら内部奇生虫の学術的な分類は多岐にわるので、ここでは簡単に、原生動物である「原虫」と、便の中に細い糸状に見える「線虫」、テープ状の「条虫」に分けて記述する。
イグアナの原虫や線虫の症例は非常に多く、未治療のイグアナはこれらの寄生虫に侵されている可能性が大変高いのが現状である。
一方、ほとんどの条虫や吸虫類は中間宿主が必要なことから、完全に草食で育てている場合、これらの寄生虫に侵されていることはごく希である。
寄生虫症は、一般に、感染してすぐに死にいたるというものは少なく、健康なイグアナの場合はほとんど無症状である。しかしながら、何らかの原因で体が弱ったり免疫力が低下した時などに、自家感染する種類の寄生虫は大量発生することがあり、消化管を傷つける恐れがある。従って、線虫や条虫類が発見されたら、健康な内に駆虫することをすすめる。

b-ball 原虫

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トリコモナス(Tritrichomonas spp.)(写真:山内 昭)
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バランチジウム(Balantidium spp.)(写真:山内 昭)
イグアナの原虫寄生では、以下のものが報告されている。 これらは、検便によって容易に検出できる。
トリコモナスについては、完全に駆虫するのは困難であり、駆虫する必要があるか否かも実際疑問である。無理な駆虫は、有用な腸内細菌までも死滅してしまう恐れもある。メトロニダゾールの長期投与でもあまり効果がみられないので、現在は治療していない。
治療中止後も、イグアナには何ら病的症状は確認できない。個人的には、トリコモナスは寄生よりもむしろ共生に近く、消化を補助しているか、寄生であっても病原性はきわめて低いと考えている。
バランチジウムについても同様で、多数寄生しているイグアナに病変は認められず、共生に近い関係である可能性も否定できない。
一方、ジアルジアは腸炎を引き起こす原因であるとの報告があるが、当研究所では実際の寄生例に遭遇していない。

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トリコモナス(Tritrichomonas spp.)
波動膜が確認できる。
メタノール固定:エオシン+ヘマトキシリン染色:対物DPlan100(oil):撮影レンズ5x:ケーラー照明:ボディD1x(写真:山内 昭)

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トリコモナス(Tritrichomonas spp.)
頭部の3本の長い鞭毛、波動膜、尾部の波動膜から遊離した1本の鞭毛が確認できる。
メタノール固定:エオシン+ヘマトキシリン染色:対物DPlan100(oil):撮影レンズ5x:ケーラー照明:ボディD1x(写真:山内 昭)

b-ball 線虫

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便と共に排泄された線虫母体(写真:山内 昭)

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駆虫後の便(写真:山内 昭)

消化管内に寄生する線形動物には、分類上、回虫、蟯虫、鉤虫、糞線虫など、さまざまな種類があるが、ここではすべてまとめて「線虫」と呼ぶことにする。線虫には、成体で数ミリのものから数センチに達するものまである。中には消化管だけに留まらず、他の組織に侵入して致命的な障害を起こすものもあるが、イグアナに寄生するものは、おおむね消化管内寄生であり、便と共に排泄されるので容易に確認できる。
便の中に虫体が発見できない場合でも、便に含まれている虫卵を検出することによって、線虫の寄生を確信することができる。
虫卵は、長径140μm×短径80μmほどの楕円形なので、低倍率の光学顕微鏡で容易に検出可能である。一般的に線虫の産卵数は非常に多いため、微量の便からでも検出できる。

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線虫母体(DPlan4x、暗視野照明、接眼ミクロメータ)
全体像、消化管、食道球、卵が明確に確認される(写真:山内 昭)

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線虫母体(DPlan4x、ケーラー)(写真:山内 昭)
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線虫頭部(PCDAch10xPL、位相差照明)
体表に密集する繊毛が確認される(写真:山内 昭)

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線虫尾部(DPlan10x、ケーラー)(写真:山内 昭)
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線虫口(PCDAch40xPL、ケーラー)(写真:山内 昭)
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線虫(メス)(DPlan10x、ケーラー)(写真:山内 昭)
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線虫(オス)(DPlan10x、ケーラー)
鋭い交接刺が確認できる(写真:山内 昭)

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線虫卵(DPlan10x、ケーラー)
飽和食塩水により集卵(写真:山内 昭)

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線虫卵(受精卵)(PCDAch40xPL、ケーラー)(写真:山内 昭)
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線虫卵(未受精卵?)(PCDAch40xPL、ケーラー)(写真:山内 昭)
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線虫(発育段階?卵胎生?)(PCDAch40xPL、ケーラー)(写真:山内 昭)
線虫は、その発達程度の低い消化管に比べて、生殖器が発達しており、宿主の消化管内の養分を吸収しながら、毎日大量の卵を生産する。線虫類は、寄生のために中間宿主を必要とせず、自家感染可能である。従って、健康な状態では、免疫などの作用で制限されている線虫数も、ひとたび体調を崩して免疫力が弱まると、異常繁殖することがあり、まるで線虫の塊のような便をすることがある。このような場合、消化管は傷つき、出血を伴うことがある。そのため、寄生が確認された場合、健康なうちに駆虫することをすすめる。
複数飼育している場合は、1匹から検出されたら全個体を治療の対象とする。

b-ball 条虫

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イグアナから排出された条虫母体(写真:山内 昭)
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同上拡大(写真:山内 昭)
イグアナの条虫寄生例はごく希である。条虫類は一般的に、卵から直接寄生することはなく、中間宿主の媒介が必要になる。従って、線虫のように消化管の中が条虫だらけになることはない。中間宿主は不明であるが、昆虫類などが考えられるであろう。極めて稀なケースであることから、現地捕獲個体や、昆虫やマウスを餌にしている、もしくは過去に与えられた経験がある個体、ファームやペットショップなどでの感染などが考えられる。

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便と共に排泄された条虫切片
活発に活動する。下の目盛は1mm。(写真:山内 昭)
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同上
蛭のような伸縮運動を繰り返し、まるで意思を持っているかのようである。顕微鏡で観察すると、移動しながら産卵しているのがわかる。中間宿主への寄生効率を上げるための手段であろう。(写真:山内 昭)
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条虫卵
対物10x。卵殻の周囲に細胞質状の組織が確認できる。(写真:山内 昭)
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条虫卵
対物40x。卵の内部には鉤があり、六鉤幼虫であることがうかがえる。(写真:山内 昭)
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条虫卵
対物100x(oil)。内部構造が明瞭に確認できる。(写真:山内 昭)
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条虫卵
対物10x偏斜照明。周囲に細胞質状の組織が確認できる。(写真:山内 昭)
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不明卵
(写真:山内 昭)

b-ball 参考文献